最初は、まずケラーベルクの畑を見に行った。
谷と森に囲まれ、ドナウ川をいくらか向こうに控えた
この傾斜が転げ落ちそうなくらいきつい畑から、豊満で熟女な素晴らしい
目も覚めるようなグリュナーとリースリングが生まれる。
そう、白いロマネコンティはここから生まれるのだ。
ドナウ川の太陽の反射が生み出す暖かさ。
空気を清浄にし、適度な冷たさを生んでくれる森の恩恵を受けて、
谷にはいつも涼しい風がよく渡る。
岩盤を好むリースリングは風化岩の上に、柔らかめの土壌を好む
グリュナーフェルトリーナーはその下の砂利質の部分に植えている。
二つ目に訪れた畑、ロイブナーベルクの穏やかな気候は、
グリュナーを優しい色合いにする。
9月、10月あたり、周囲の畑が一斉に収穫を始めても、
フランツ父さんは、少しも慌てない。
完全に熟するその日まで、11月いっぱいまでは待つらしい。
お父さんのそのまたお父さんが植えた樹齢50歳以上の
ブドウの木は、ちょっとした自慢。
『実が小さく、味がとても濃い』とルカス。
ドナウにせり出したロイブナーの畑は完璧な熟成をしてくれる。
ルカスが色々とそのような事を説明してくれている間、
お父さんは群れから離れて、遠巻きに時間を過ごす。
しかし、お父さんの動きにはなにひとつ無駄がない。
畑のあちらからこちら、歩き回って、その手は絶えず動いている。
不要なブドウの枝をつぎつぎと取り払っては整枝する
その背中に、私はそっと付いて行く。
お父さんの静かな時間を壊さないように。
やっぱりこの人は畑の主、おしゃべりよりブドウが好きなのだ。
時々お父さんは立ち止まって、ちょこちょこ付いて行く
私との距離を修正する。
遠すぎないように近すぎないように。
蔵に戻ると、13種類ものピヒラーの珠玉のワインをふるまってくれた。
フォン・デン・テラッセン、シュタイナタール、ロイブナーベルク、
ケラーベルクの4つの畑で出来たリースリングと
グリュナーフェルトリーナーから作られた特上品スマラクト。
そしてブレンドの最高級品‘M’。
どれをとっても、目鼻立ちは違うものの最も美しいワインに
仕上がっていた。
中でも、ケラーベルクの畑のリースリングときては、
また言葉も出ないような全てを備えた完璧な味わいを見せ、
先ほどの畑でのお父さんの姿が蘇る。
白いロマネ・コンティの異名は、お父さんのあの手仕事から
生まれて来るのだ。
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