『ロワゾーの面影、ラ・コート・ドール』の巻き〜!
昨年2月24日、夜中にニュースを見ていましたら、
フランスの放送局のニュースで、ミシュラン三ツ星レストラン
ラ・コート・ドールのシェフ、ベルナール・ロワゾー氏が猟銃で自殺
したニュースが流されました。
ロワゾー氏はNH○の『未来への授業』などでも取り上げられた
フランスを代表する偉大なシェフです。
一度はロワゾーの料理を食べてみたいとずっと思っていた
私は、大変大きなショックを受けました。
料理と郷土とフランスを心から愛する彼は、ブラウン管の中で、
幼い頃から郷土に根付いた本物の食べ物を子供に与えて、
おいしさとは何かを覚えさせることが大切だといいます。
「努力をすればどんな夢でも叶う。頑張りましょう。」
と子供たちに夢を持つ事の素晴らしさを説くロワゾー氏の
姿は誇りと自信に満ちていて、その後の彼の悲報とは
あまりに遠いものでした。
ゴー・ミヨなどの評価が19点から17点に落とされた事
が自殺の原因だと噂されていますが、真相は誰にも分りません。
ご本人が亡くなってしまっては、もうロワゾーの料理を味わう
ことは2度とできません。
しかし、私は今回あえて彼失き後のコート・ドールを
訪れることにしました。
虎は死んで皮を残す。
彼の存在そのものがきっとそこに残されているはずです。
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さて、夜8時のディナータイム、席の3分の2ほどが
お客様ですでに埋まっています。
噴水のお庭がライトアップされた窓際の席は、
静やかながら心落ち着いて、いつもは忙しさにかまけて
つい忘れがちな優しい言葉を引き出すような、
そんな雰囲気があります。
アミューズ(付きだし)はエスカルゴと野菜のクリームのカナッペ。
おいしく平らげると、その後第2の付きだしの
カリフラワーのポタージュキャラメリゼが。
濃厚でうまみがギュッゥ〜〜と詰まって、甘くさえ感じます。
カリフラワーそのものが淡白なので、それに足しこまれた
複雑な風味は新しい味わいでした。
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そして、フォアグラのポワレと名物の
グルヌイユ(かえる)のパセリとにんにくのピュレのソースがけ。
手の平の付け根から指先まではあろうかと
いうような想像を絶する大きさのフォアグラは圧巻。
こ、こ、こんなにデッカイ見事なフォアグラの固まりは
店長も社長も生まれて初めて見ました。
ないです。このサイズ、あり得ません。許されないほどフレッシュでドでかい。
ほどよく焼かれたフォアグラの口当たりは、
外がパリッとした食感を残し、ナイフを入れると
フグの白子や茶碗蒸しのようにトロリと崩れ、
これがまた絶妙。
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これを食べただけでも至福に浸ってしまいますが、
さぁ、お次はロワゾーの名物料理、グルヌイユです。
いくぞ!!
と、ここでいきなり店長、急にお腹が痛くなってきました。
実は私、極度の魚介アレルギーがありまして、姿形は見えねども、
スープの出しに入っていたりするだけでも、胃痙攣を起こして
大変なことになるのです。
あの、おいしいカリフラワーのキャラメルのポタージュに
きっとなにか入っていたのかも知れません。
湯気の立つカエルの脚に思いっきり後ろ髪引かれながら、
ここであえなく店長リタイヤ。
社長、後はおまかせしましたよ。
泣く泣く薬を飲んでその日は眠りました。
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さて、翌朝、ウソのように胃痛は消え、朝ごはんをしっかり
いただいてしまいました。
焼きたてのクロワッサンにオートミール。
フレッシュなピンクの自家製ハムに、コンコンとスプーンで割りを
入れると、中がトロトロの絶妙な茹で具合の卵。
見た目はシンプルなこの朝ごはんも、ひとつひとつは
びっくりするほど新鮮で、完成されたおいしさです。
昨日お食事をしたダイニングとお庭をかこむように、遠方から
来るお客様用のお部屋があり、地下にはスパも完備されています。
階上から一望できるソーリューの美しい風景と人の心を解きほぐす
為の、スパと最高の食材をふんだんに盛り込んだ丁寧な料理。
美しいこの眺めを見ながら、私はロワゾー氏がここに来た全ての
お客様に癒しの場を提供したいと願っていたことを
ひしひしと感じました。
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コート・ドールを離れる時、勘定書きには、
ディナーの金額がはずされていました。
「昨日貴女にはお料理をお楽しみいただけなかったのでちょうだいすることはできません。」
現在は奥様のロワゾー夫人が女手ひとつで、ここを仕切っているとの
ことですが、どこまでも細やかな対応ぶりに、驚かされました。
ベルナール・ロワゾーはまだここにいる。
故人の肉体は存在しなくとも、
そこにはやはりロワゾーさんの想いが深く刻まれいると感じました。
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人の幸せを常に願いながら料理人として生きたに違いない
ベルナール・ロワゾーさん。
ミシュランやゴー・ミヨなどマスコミと批評家などの事で
命を落とすには、あまりに勿体無い。
完璧を求めたこの偉大な料理人の人生に、
心からの敬意と哀悼の意を捧げたいと思います。
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